犬ぞり案内人 山崎哲秀 ー北極圏をテツがゆくー

グリーンランド北西部地方に古来から住む、エスキモー民族から伝承を受けた犬ぞりを操り、“アバンナット北極プロジェクト”に取り組む、山崎 哲秀のブログです。 このブログでは、北極遠征中や日本滞在中の活動の様子を紹介します。 アバンナットプロジェクトの詳細は、山崎哲秀のホームページhttp://www.eonet.ne.jp/~avangnaq/ をご覧下さい。山崎哲秀の連絡先は、同ホームページに記載しています。

2009年03月

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329日(日)

 27日から天候がスッキリせず。昨日からブリザードとなり、今日の午後には風は弱まったが、雪。予定では明日30日に4月期の犬橇旅行に出発予定だったが、その前に一つやっておかなければならないことがある。レゾリュート南側の沖合い一帯は、例年海流の影響で、冬の間も広い範囲で海が凍りにくい場所があり、犬橇で通行するにあたり、安全確認のため、その場所の偵察をしておかなければならない。2年前の犬橇流失事故が鮮明に頭をよぎる。かなり敏感になっている。乱氷も場所によっては凄いと聞く。この周辺の海氷を熟知しているイヌイットに、偵察に同行してもらい、一緒に確認してもらうことになっているが、予定していた昨日から天候が悪く延期となっている。今朝の気温はマイナス16.5℃と跳ね上がった。スタートしたい気持ちを我慢、我慢。焦らない、焦らない・・。天候の回復はあさってあたりとか。装備、食糧の準備はすでに終えている。

 大阪市の桃太郎さんからのリクエストです。

ジャコウウシとは野生の牛の仲間!? 写真撮れていましたらアップしてください!

今回は写真を撮れてないのですが、以前に夏の中部グリーンランドで撮った写真が1枚だけファイルに入ってましたのでアップしますね。ちょっと分かりにくい写真ですが・・・。右側が頭。角が丸まったようにはえてます。背中のほうが茶色っぽいですが、たぶん夏だったので、冬毛が抜けてきていたのだと思います。横の長さが2mくらいか、けっこう大きい。草食で大食いだとか・・。

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327日(金)

 3月期の犬橇旅行で遭遇した白熊は全部で5頭。一回目は走行中に3頭連れ。多分、家族だったのかな。数百メートル先を悠々と、1頭は立ち上がってこちらの様子を見ながら通り過ぎていった。立ち上がったらやっぱりでかかったな。黒い鼻の先まで肉眼でくっきり。こちらは今にも飛び掛りそうな犬たちを抑制して、ライフルを構えて防御態勢。二回目は行動終了後、テントを張って間もなく、犬の唸りが凄いので、周囲を双眼鏡で見回してみると白熊が乱氷帯の中をこちらに向かって歩いていた。2丁のライフルを準備して「いつでも来~い!」と白熊に向かって叫んでみたが、来なかった。三回目は日没後、周囲がすっかり暗くなってから、ある方向に向かって犬が吠え出し大騒ぎを始めた。多分かなり近いところまで来ていたのだと思う。海氷上をウロウロするキツネではなかっただろう。なんにしても白熊に対しては、いつも防御態勢だ。唯一撮れた写真は2回目の少し遠くに離れていた、今日の添付写真。う~ん・・・。もう少しちゃんと姿を撮影したいな・・・。

 今日は大阪府箕面市のマッキーさんから質問を頂きました!

Q:(その1夜はすんなり眠れるのですか?いろいろ考えたりしないのですか??不安?期待??それとも、翌日以降の計画のことで頭がいっぱいになって眠るのかしら。

 (その2)一日の移動距離は目標を決めているのですか?それとも時間的な都合で、一日を終了するのですか?

A:(その1)犬橇で行動中のテント生活では、殆ど熟睡していないと思う。ブリザードの時はテントを揺るがす風の音を聞きながら、このまま永遠に風が止まないのでは、と怯えているし、白熊に出会った日なんかは特に、耳を済ませ足音を探して、やっぱり怯えているし、本当に毎日眠ったのかどうか分からないうちに夜が明けてくる、といった感じです。普通以上に怖がりな性格なのかもしれない・・(笑)。翌日以降の計画のことよりも、自然への恐怖ばっかり・・・。それが無かったら冒険家になれるのかも(笑)。

(その2)一日の移動距離は全然決めてないです。天気が良く、海氷も平らなところだと、7080kmといった感じで距離がどんどん延びることもあるし、凸凹の乱氷帯や雪が深かったり、天候が悪かったりなどしたら、数十キロも進めないこともあります。時間もそんな感じで、ついつい9時間も10時間も犬達を走らせてしまうこともあったり、56時間でストップしたりとか・・。最終的に一日平均3040km走れてたらいいのかなと・・。でも、白夜の時はいいのですが、夜がある時期はなるべく明るいうちに行動を終わらせようと心掛けてますよ。

写真:唯一撮れた白熊の写真・・・・。

聞いてみたいことがありましたら、avangnaq@gaia.eonet.ne.jp まで連慮なく質問を。ささいなことでも全然OKです。4月期の犬橇旅行中も大丈夫ですよ。

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326日(木)

 24日からレゾリュートを訪問していた渡辺先生は、このあとのケンブリッジベイへの犬橇旅行のアドバイスを残して、早朝の定期便で日本へと帰国されていった。またまた一人となってしまい、心細い限りであるが、旅行に向けて最終準備をしている。

 すっかり陽は高くなったが、太陽が昇る前の朝の気温は、まだマイナス40℃にも冷え込んでいる。それでも朝の7時半頃に顔を出す太陽は、夜の8時を過ぎてもそびえる季節となった。暗い時期は、町の子供達の姿は見かけなかったが、今は外で元気に遊ぶ子供達の姿が見られるようになった。

写真:スノーボード遊びをする子供達。

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325日(水)

 今日は午後から渡辺先生と裏山を散策して過ごした。高台から見渡す北極の広大さを改めて感じた。

 23日間の犬橇旅行中、厳しい2月末から3月の気候にも耐え抜いてくれ、大きく体調を崩した犬はおらず、全頭無事に帰着した。このあと控える4月期の犬橇旅行は、気候も良くなり、犬達の負担もいくらか軽減するはずだ。

写真:(左)旅行中の14頭の犬達。生後4ヶ月半のシンとコウは、橇には繋がずにフリーで走らせた。(右)橇の横を走るシンとコウ。

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324日(火)

 渡辺興亜先生が34日の予定で、レゾリュートを訪問してくださった。アバンナット計画の顧問としてもアドバイスを頂いている。僕が北極での活動を始めてもう20年になるが、最初に出会った研究者が渡辺先生であった。以来、極地活動の志向を大きく影響受けるとともに、活動法(特にロジスティック)の教えを頂いてきた。極地で行動を共にするチャンスはなかなか訪れなかったが、まさかこういう形で、北極でご一緒できる機会があるとは思いもよらなかった。感激極まりない。

写真:(左)渡辺先生とカナダ北極圏の地図を広げながら極地談議。(右)渡辺先生と犬橇に遊ぶ。

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 今日はこのあと、レゾリュート夕方着の定期便で、日本から一人の訪問客があります。またブログでも報告したいと思います。

 3月期の犬橇旅行では各観測課題も実施したが、前半は天候の厳しさに、なかなか手付かず状態だった。それでも後半の天候の安定と共に海氷コア採取、海氷観測、積雪サンプリングといった課題を実施した。

改めて感じたのは、この北極の大自然の中、色んな意味で一人ではもったいない、ということだ。観測に関しては、もし自分が研究者としての視点を持ち合わせていたら、もっとその状況に応じて、臨機応変に観測データを収集出来るのに・・・。何としても今後、チームでフィールドワークを出来る体制を持ちたい。

写真:海氷コア採取風景と採取した試料。

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322日(日)

 午前中は生後4ヶ月半の仔犬(といっても随分と体が大きくなった)の犬橇レッスンをする。5頭の成犬に加わって、橇を曳く練習を3時間ほどした。午後からは、4月期の犬橇旅行の準備をして過ごした。

 

 3月期の犬橇旅行は、初めの2週間ほどはとにかく天候が不安定で、活動できない日が多かった。31213日頃を境にようやく風と雲が変化し、厳冬期から季節が移り変わった気配を感じた。そして天候も安定してきた。

自分で極地での行動を避けたい天候の基準は

1.視程(視界)のない強風の吹雪。特にマイナス25℃以下。

※風の弱い視程のない降雪の場合は、時によってOK

2.視程を遮る地吹雪、ブリザード。

※特にマイナス25℃以下の高い地吹雪、ブリザードは絶対行動しない。地を這うような低い地吹雪の場合は、時によってOK

「何を甘いこと言ってるんだ。」と言われようが、自分の中で行動のルールを持っていないと、幾つ生命があっても足りはしない。

写真:旅行中の犬橇の風景。

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321日(金)

 レゾリュート帰着後2日が経ち、23日間の犬橇旅行は現実だったのか分からないような感覚で、普通の生活に戻った。気持ちは4月期のケンブリッジベイへの犬橇旅行へ、すでに切り替わっている。

 

 225日に出発した3月期の犬橇旅行は、3日目早々にアクシデントに見舞われた。視程(視界)の利かないホワイトアウト状態の中を行動中に、犬橇は乱氷帯に入り込んでしまった。凸凹に橇がスタックしてしまい、脱け出すのに橇を後ろから押してやり、動き出した際に一緒に走り出したら、雪で隠れた海氷のクラックに右足をとられ、変なふうに踏ん張ってしまった。右ふくらはぎの筋肉が「ブチッ!」と音を立てて切れてしまった。多分2本ほど。当然ながら這うようにしか歩ける状態ではなかったが、旅は続行することにした。もともと怪我にはうまく付き合っていくほうで、動きながら治していくタイプだ。アキレス腱じゃなくてよかった。一番気をつけたことは、犬橇に置いていかれないこと。一人取り残されてしまったら死活問題だ。橇を止めたあとのスタートが、彼ら(犬達)はダッシュが凄いのだ。

写真:怪我の翌日のキャンプ風景。海氷観測をすることにして停滞することに。おかげで随分と痛みが和らいだ。

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319日(木)

 無事レゾリュートに帰着しました!23日間の犬橇旅行でした。レゾリュートには10日ほど滞在する予定です。その間、旅行の様子をブログでも報告したいと思います。

このあと3月末に4月期の犬橇旅行をスタートすべく段取りをします。

写真:顔中、凍傷だらけ。

位置は、Google Map

http://maps.google.co.jp/maps/ms?hl=ja&ie=UTF8&msa=0&msid=108625101905361637327.000463c90d141a4c350e6&ll=75.217222,-96.623098&spn=1.904449,9.887695&t=h&z=7

を参照してください。右の緑のテントマークが基点のレゾリュート、左の緑のテントマークが東小屋、黄色の犬マークが往路のキャンプ地、青の旗マークが復路のキャンプ地です。

 

 

2009/03/13 (DAY17) -35.2度 晴れ 風速0.1/s
9:00 P12東小屋を出発
18:00
 P13にて行動終了

本日の移動距離約30km

東小屋から海氷までは谷を下ることになるが、下ると言っても下る一方ではなく、かなりアップダウンがある。そして陸上は海氷と違って、段差があったり、地肌が出ているところがあったり、ソリが潜るような雪があったりして走りにくい上、、更には凸凹したところに雪が吹き溜まっているところにソリが突っ込んだ場合が最悪だ、スタックして動かない。今日はスタックするたびにソリから荷物を降ろし、ソリを引っ張り出し、荷物を積みなおす作業を何度もやり、大汗をかいた。今日は濡れた衣服を大々的に乾かさないと明日用の乾いた手袋がない。

ウヤーが右足の付け根を捻挫したようだ。重いソリを引っ張ったからだろう。アバンナット犬ぞりチームは現在、成犬12匹、子犬2匹であるが、ウキダガヤとウヤーが不調なので、実質10匹でソリを曳いているようなものである。馬力のあったシロとクロを失ったのがつらい。今日は谷の途中で犬たちのために犬たちのためのドッグフードの一部を置いていかざるを得なかった。谷を抜けるのに、自分も疲れたが、犬たちも疲れたようだ。犬の前を先導して歩いても、途中でついて来なくなった。いくら距離が離れてもじっと待ってる。相当疲れたのだろう。

 

今日は風が弱く暖かく感じた。雲の形も暖かそうな形に変わってきたように思う。季節が変わってきたのかもしれない。谷を下り、海氷を少し進んだP13にて本日の行動終了。

 

2009/03/14 (DAY18) -32.6度 晴れ 低い地吹雪 風速7.5/s
P13出発
P14
にて行動終了

本日の移動距離約25km

昨日の難行程にはさすがに自分も犬たちも疲れたので、朝はゆっくりし、午前中、海氷観測を行ってから出発した。今日は昨日ほどの難しさではないとはいえ、海氷上では一番きつい乱氷帯を抜けた。50センチから1mの波がそのままの形で固まったような乱氷で、その窪んだところに雪がたまってスタックする。往路にここを通ったときは、ホワイトアウトの視界の悪いときで、あまり陸地から離れないところを進もうとしたために、激しい乱氷に紛れ込み、自分の足を怪我して乱氷帯を抜けるのが大変だったが、今日は1回のスタックで抜けることができた。同じ道を通るにも、行きより帰りのほうが要領が分かっている分、速い。

途中から地吹雪が強くなってきたが、風に暖かさを感じる。

 

2009/03/15 (DAY19) 
P14を出発
P15
にて行動終了

本日の移動距離約30km

風がピタッとやんでいる。今日は出発前と到着後の二度、海氷観測を行う。海氷観測は往路と帰路合わせ、大体等間隔になるよう場所を選んで行っている。

大阪府の桃太郎さんから質問をいただきました。

質問:
 哲さんは待機中はなにで時間潰ししてはるんでしょ?

答え:
 ブリザードで停滞中のときも、気象観測や犬の世話のため、一日に何度もテントの外に出ます。風の弱くなったときを見計らってエサを与えたり、雪に埋もれている犬たちを掘り起こしたりします。その他は、食事時以外は寝袋にくるまって、ひたすら天気の回復を待っています。

 旅行中は、食料、通信機器、寝袋、風をさえぎるテントが欠かせませんが、燃料なしには生きていけません。周りに水の材料の雪や氷はあっても、燃料なしには融かしたり沸かしたりできないからです。また、テント内を暖めないと、塗れた衣服を乾かすこともできません。 今、燃料は灯油を使っています。旅行に持ち運べる量には限りがあるので、食事を作るときやテント内で作業があって暖をとるときは灯油コンロを使いますが、それ以外は燃料節約のため、コンロを消し、寝袋に籠もって天気の回復を待ち続けます。

質問はavangnaq@gaia.eonet.ne.jp で受け付けています。

位置は、Google Map

http://maps.google.co.jp/maps/ms?hl=ja&ie=UTF8&msa=0&msid=108625101905361637327.000463c90d141a4c350e6&ll=75.217222,-96.623098&spn=1.904449,9.887695&t=h&z=7

を参照してください。黄色の犬マークは往路のキャンプ地、青の旗マークが復路のキャンプ地です。

 

2009/03/11 (DAY15) -37.0度 晴れ 風速3.9/s
P10を出発
P11
にて行動終了

本日の移動距離約45km

夕べは終に白クマはテントまで来なかったが、一晩、眠れぬ夜を過ごした。朝の気温は-43.1度。寒い。太陽高度は日に日に高くなっているが、天気がいいから余計に冷え込むのだろう。南極の昭和基地より、ここの方が冷え込みがきついのではないだろうか。

これでもう少し暖かければ、一日に7-8時間行動できるのだが、毎日こう寒いと5,6時間も行動すると手はかじかむし、寒さで体内のエネルギーを使い果たし、今日はこれくらいで止めにしよう、と頭より体が指示を出す。犬たちも寒さで体力を消耗する。4月に入り、もう少し暖かくなれば(-10-20度くらい)、一日で70-80kmは進むようになるだろう。

 

2009/03/12 (DAY16) -36度 地吹雪 風速4.5/s
P11出発
P12
東小屋にて行動終了

本日の移動距離約30km

低い地吹雪の中、海氷から陸に上がり、再び谷を上って東小屋まで戻ってきた。今は吹雪いており視界が悪い。明日は天気が回復すれば、レゾリュートに向けて出発する。

東小屋にデポしていた帰路用のドッグフードをソリに積み込む。ソリには氷を掘削するハンドオーガーが嵩張り、小屋にデポしてある全てのドッグフードを積むことができない。ソリに積み込みきれない分は、小屋に残していく。それでも明日のソリの重量は、この旅行で一番多い。ドッグフードは毎日食べて減っていくので、日が経つにつれ軽くなるが、最初が大変だ。犬たちは明日、このソリを引けるだろうか。


グリーンランドのイヌイットたちが狩猟にスノーモビルではなく犬ぞりを使うのは、犬は燃料がいらず、餌も採った獲物を与えるのでドッグフードを持っていく必要もないからだが、自分の場合、狩をして餌を確保しながらの旅行はできない。夏に海氷が溶け出し海が開き始める頃は、のんびり氷の淵で寝ているアザラシを見かけることもあり、それを銃で仕留めることもできるだろうが、氷の張っているこの季節、アザラシを捕ろうと思えば、アザラシの呼吸口である氷の穴の前で何時間も、時には何日も、いつかは呼吸口に呼吸しに上がって来るかもしれないアザラシを待ち続けないといけないのだ。短い日程の中で悠長にアザラシを待ってはいられないので、我がドッグチームは旅行中もドライのドッグフードを与えている。

犬ぞりを使うには、ドッグフードがいる。それでもスノーモビルを使うよりも安心だ。スノーモビルは燃料がいるし、バッテリーが上がった場合に備えて発電機もいる。そして何より壊れたときに素人では整備ができないからだ。


子犬のシンとコウは走るときだけでなく、キャンプサイトでも紐でつないでおらず自由にさせている。コウは食事時、他の犬のところまでドッグフードを食べに行くほど食い意地が張っている。コウはよく、走りながら吐いているが、吐き終えたらケロッとして走っている。きっと食べすぎなのだろう。食い意地が張っているところは、母犬のラッシそっくりだ。

位置は、Google Map

http://maps.google.co.jp/maps/ms?hl=ja&ie=UTF8&msa=0&msid=108625101905361637327.000463c90d141a4c350e6&ll=75.217222,-96.623098&spn=1.904449,9.887695&t=h&z=7

を参照してください。

 

2009/03/08 (DAY12) -38.3度 晴れ 風速3.6/s
11:00 P6東小屋を出発
17:00
 P7にて行動終了

本日の移動距離約35km

朝、まだ風は吹いていたが東小屋を出発した。これが白夜であれば、一日中太陽が出ているので、時間を気にせず風がやむのを待って真夜中(の時間帯)に出発ということもできるが、まだ一日の半分強は夜である。天候の回復の見込みがあるときは、待ってばかりもいられない。数日前に上ってきた谷を下り、再び海氷に出て、バサースト島に沿って北上を開始する。海氷はいい状態だ。

足の痛みはまだ残り、ダッシュはできないが、普通に走れるくらい回復している。

なるべく風を受けないように気をつけてはいるが、それでも凍傷は避けて透れない。顔に受けた凍傷は我ながらすさまじい。鼻が特にひどい。

レゾリュートには遅くても3/25には帰りたい。帰ったらすぐに4月の旅行準備に取りかからねばならない。食料を新たに買い集めパッキング、レゾリュートでサポートしてくれるアジズとドッグフードの補給の打ち合わせ等、忙しくなる。

 

2009/03/09 (DAY13) -34.1度 晴れ 風速0/s
9:30 P7出発
16
00 P8(北緯765分)にて行動終了

本日の移動距離約30km

今日は全体的にすがすがしい天気だった。

今日、北緯76度を越えた。

夕方、陸地まで歩いて雪のサンプリングを行う。沖合いの海氷は、昨年の夏に溶けこの冬に凍った一年氷であるが、沿岸沿いは多年氷のようだ。氷の表面を砕いてなめてみても塩辛くない。いいコアが採れそうだ。明日は腰を据えてここで氷の観測を行い、この3月期の旅行はこのあたりを折り返し地点にしようとおもう。

犬たちもよく走ってくれている。アミバルが元気だが痩せている。レゾリュートに帰ったら虫下しの薬を飲ませてやろう。

天気予報では今日の最低気温は今期最低の-48度になるらしい。テント内ではコンロ2つをつけっぱなしである。凍傷で指先にピリピリ痺れを感じる。

今日はビッグニュースあり!極地研究所名誉教授でアバンナットプロジェクトを応援して下さっている渡邉興亜先生が323-26日にレゾリュートに来てくださることになった!渡邉先生、感激です、どうもありがとうございます!

 

 2009/03/10 (DAY14) -41.1度 晴れ 風速0.2/s

 

昼過ぎまでP8にて観測

P8から少し北上し、P9(北緯7609分)をこの3月期の旅行の折り返し地点にすることにした。P9の北方は乱氷帯が続いているのが見渡せる。乱氷帯は一旦入り込むと氷の段差や氷の間につまった柔らかい雪でソリがすぐにスタックする。進むにも、何度も荷物を全部降ろしてからソリを引っ張り上げ荷物を積み直さねばならず、途中で引き返すとしても、ソリの方向を変えるのにまた苦労をする。今、ここは無理をするところではない。今シーズンのメインは4月期の旅行である。観測を続けながらレゾリュートまで戻ろう。折り返し地点から少し南の氷の平らテントの張りやすいところP10で本日は終了とする。

 

今、白クマに付きまとわれている。500mほど先の氷山の影に1匹ウロウロしているのだが、こちらを狙っているのかもしれない。ライフルに弾を込め、構えてテントの前で待機している。犬たちが唸っている。

●2009/03/05 (DAY9) -32.2度 風速2m/s 晴

東小屋P6にて停滞


 昨日のうちに橇への荷造りは終えていたが、南部に強い低気圧が近づいてきており、風が強くなりそうなので、無理せず停滞とする。一旦吹雪いてしまえば、広い谷を下るにも遭難の危険を伴うし、数日悪天候で停滞するなら、ドッグフードのあるところで待機したほうがよい。


 アリーサクたちは今日スノーモビルでレゾリュートに帰るらしい。吹雪の中でも時々立ち止まり、GPSで目的地までの方向、距離を確認しながら進むようだ。それにしても、GPSの精度には感嘆する。出発前にGPSで計測したレゾリュートの宿の南東側出口は、北緯744147.7秒、西経944918.8度であるが、Google Mapでもこの緯度経度は確かに宿の南東側出口を指す。先日、吹雪の中、P4で停滞していた我がドッグチームをアリーサクたちのスノーモビルが発見してくれたのも偶然ではない、日々のキャンプ地の緯度経度を定時更新で有佐に伝え、有佐がそれをレゾリュートでサポートしてくれているアジズに伝えているから、アリーサクたちはその緯度経度を元に、GPSで位置を確認しながら見つけ出してくれたのだ。そうはいっても吹雪の中をスノーモビルを走らせながらGPSを見る余裕はない。先に出発した我がドッグチームの橇のトレースをスノーモビルのライトで照らし確認しながら追ってくる。しかしトレースは風に消されたり、犬ぞりが迷いながら進むので、アリーサクたちはかえってトレースに惑わされたらしい。スノーモビルなら道を誤っても引き返せるが、犬ぞりは引き返すだけでも大変だ。無理は禁物なのである。

明日、スカッと晴れたら上ってきた谷を降りて、再び海氷に出る予定。

 

 アリーサクとケナは朝11時半に出発した。アリーサクたちが小屋で使った燃料の残りを使わせてもらえたので、今日は小屋に泊まる。ぬれた寝袋を乾かすことができる、ありがたい。この小屋は、谷を見下ろす小高い場所に立っているが、どうやら谷に集まる白クマやジャコウウシ、鹿などの野生動物の調査観測用施設らしい。このあたりの夏は雄大な景色が広がり、多くの動物生息する本当に美しい場所なのだそうだ。このバサースト島にはこの東小屋以外にもいくつか小屋がある。この旅行の当初の計画では、ドッグフードを2箇所の小屋に分散して補給してもらうつもりでいたが、途中で、この東小屋1箇所への補給に変更してもらった。昨年までのグリーンランドに比べ、カナダ側は格段に寒い。犬たちは寒くても元気だが、寒いだけで体力を消耗し痩せてくるので、ドッグフードをたっぷり目にやっている。そのため、1箇所の小屋へ集約するほうが効率がよいと判断したのだ。

 

●2009/03/06 (DAY10) -37.3度 風速13m/s 高い地吹雪

P6にて停滞2日目


昨日、アリーサクたちはレゾリュートまで約200kmを超える道のりを6時間半で帰ったらしい。海氷の上を走るスノーモビルはアスファルトの道を走るバイクとは随分違う。相当猛スピードで帰ったようだが、海氷が真っ平らではないので振動が激しいし、寒いため、途中でエンジンを止めると、次にエンジンをかけるのにコンロで暖めないといけない。きっとエンジンを止めずに一気に帰りたかったのだろう。この旅行中に撮った写真をCDに焼いたものをアリーサクに託したが、寒さとスノーモビルの振動のため、CDにひびが入って使えなかったようだ。衛星携帯電話イリジウムでの写真伝送がうまくいかず、ブログに旅行の写真をアップできるのは、レゾリュートに戻るまでしばしお預けです。


今日は再び小屋からテントに移った。小さなテントは少量の燃料で温まるから小屋よりよほど暖かい。だが小屋よりましとはいえ、寒いものは寒い。コンロをふたつ使用しているが、それでも寒い。そして風が強い。停滞中、テントの中にいるときにはずっと寝袋にくるまっている。相棒がいれば、話もできるし作業も分担できるが、停滞し、寒さに凍える日は一人が身にしみる。こういう日は犬たちも雪に埋もれたまま動きもせず、相手にもなってくれない。

風がやむのはもう少しかかりそうだ。

 

 

●2009/03/07 (DAY11) -36度 風速11m/s 地吹雪

P6にて停滞3日目


 また風力が増した。

 すごいブリザードだ、動かなくて正解だった。明日の午後から風が弱くなる予報どおりであることを期待する。テントの中は寒い。今日もまた寝袋で待たないといけない。テントで待つのも寒いが、外で動けば凍傷である、仕方ない。

 

 3月の初旬の気候はまだ観測向きではない。観測は、天気の安定する3月後半から4月以降にかけてがベストだろう。白夜の4月は太陽の光を一日中受けてポカポカし、テントで寝ていても暖かい。将来、研究者と観測を共にするにしても、恐らくこの寒さには耐えられないであろう。

 

 明日風がやんだら行けるところまで行く。ドッグフードの一部は帰路用に小屋に残し、8日分を橇に積んで持っていく。これからバサースト島の沿岸を北に進むが、天気とドッグフードの残量と相談しながら進むことになる。この小屋には帰路のドッグフードを回収しに、また帰ってくることになる。小屋まで再び谷を上ってくるのは手間だが、帰路の分のドッグフードもソリに一緒に積んで行くことはできない。今の時期、まだ気温が低すぎて、海氷面が砂のようでソリが滑らずに犬への負担が大きいからだ。かといって、小屋以外の場所にドッグフードをデポすることもできない。白クマに食べられて終わりだろう。320日頃にはレゾリュートに帰着するつもりで、時間と天気とドッグフードの許す範囲で、進める限り北上をし、観測を続けていきたい。

 

体感気温が-30度を下回ると、凍傷の危険性が高くなる。凍傷とは、体の組織が凍り、壊死する症状だ。外気に触れている鼻や頬はもちろんのこと、手袋やブーツの中の手足の指先も血の巡りが悪く、凍傷になりやすい。自分は生きているのに、心臓は元気に動いているのに、痛みも伴わず、静かに肌が凍り始めるから恐ろしい。一旦凍ってしまった肌は、初期の段階で気づいて温めれば、軽い火傷のような症状で、いつかは肌も再生するが、症状がひどくなると鼻や指を失うことになる。体感気温は、気温と風速に関連している。たとえば、気温が-30度の時、無風であれば体感気温も-30度だが、風速が5m/s-45度、風速が10m/s-60度にもなる。犬ぞりには風をさえぎるフードがない。ヤッケの帽子につけている毛皮が頼りだが、完全に風をしのぐことはできない。気温と風速、視程を見て、凍傷の危険性を考慮し、進むべきか、停滞すべきかを判断している。

GPSは現在地と目的地の緯度経度を入力しておけば目的地までの方向や距離を教えてくれる賢い存在だが、残念なことに、電池を必要とする電化製品である。今シーズンは、パソコンのバッテリーすら充電できるという触れ込みのソーラーパネルを新たに用意した。しかし、十分な日照がないと充電できず、また、この寒冷地でどれほどの効果があるものか検証できていない。そのため、長期間の旅行においてはGPSの電池すら惜しく、GPSはキャンプ地の緯度経度を知るために使用しているのみで、ナビには使っていない。

では、どのように進路を決めるのか? このあたりは幸い、島々の位置や海岸線の起伏など、目印になる地形が多い。視界が良ければ地図と地形を見渡しながら進むことができる。また視界が悪く、全面真っ白なホワイトアウトの中でも、太陽の方角や風の向き、主風向により海氷面に刻まれている風紋(北西から南東の向き)を読むことによって進むことができるのだ。帰路、レゾリュートに近づいたら、リーダー犬のキナリが道を教えてくれるかもしれない。

Blog2

地図上の右の緑のテントマークが出発地のレゾリュート、黄色の犬マークがキャンプ地、左の緑のテントマークが、バサースト島内の観測小屋(東小屋)を指します。

Google Map
では、

http://maps.google.co.jp/maps/ms?hl=ja&ie=UTF8&msa=0&msid=108625101905361637327.000463c90d141a4c350e6&ll=75.217222,-96.623098&spn=1.904449,9.887695&t=h&z=7

を参照してください。

 

●2009/03/01 (DAY5) -33.3度 晴れ 風速3.0/s 視程15km以上
10:00 P3を出発
16:40
 P4にて行動終了

本日の移動距離約50km

足の怪我はボチボチ回復してきた。

旅行に出てはじめて1日快晴で、氷の状態もよく、距離も稼げた。

今は、バサースト島の沿岸にいる。明日は、島の海岸線沿いに北上する。明日は乱氷帯を抜けなければならないようだが、バサースト島に上陸し、観測小屋(東小屋 P5)まで一気に行けるかもしれない。レゾリュートから東小屋までスノーモービルで物資補給を依頼しているアリーサク(レゾリュートで遠征をサポートしてくれているアジズの妻)にも、明日、ルート上で遭うであろう。


●2009/03/02 (DAY6) -28.9度 吹雪 風速8.0m/s 視程300

ブリザードにより停滞。地図上P4

キナリの食欲が戻ってきた。やはり出発当初からホワイトアウトの中で目印となる目標なく白い中を先頭を走ってきたのが堪えたのだろう。

シンとコウは、キャンプ地ではいつもテントの風下で寝ている。時々シンがコウをいじめている。シンはオスなだけあって、コウより体格がよく偉そうだ。

今日は吹雪で視界がまったく利かない。

ここはレゾリュートから直線でつなげば120km程度だが、氷の薄い場所や乱氷を迂回するので、実際の移動距離は150kmを越える。今日、レゾリュートからスノーモビルでドッグフードや燃料などの補給物資を届けてくれることになっているアリーサクもこの悪天候では来られないはずだ。外に出ればたちまち凍傷だ。来たとしても、ホワイトアウトの中、ドッグチームを見つけることができずに、通り過ぎてしまうだろう。しかし、こんな天気で出るのは気違いと冒険家くらいだ、冒険家ですら出ないのではないか?

 

絶対に来ないであろうと思っていたアリーサクが、夕方になって、相棒のケナと補給物資とともにやってきた。ドッグフード1袋を置き、残りの物資とともに先に東小屋に向かった。彼女たちも海氷面の凸凹が見えず、ここまで来るのに苦労はしたようだが、冒険ではなく、確かな経験と実力があって、この吹雪の中をやってきたのだろう。

●2009/03/03 (DAY7) -27.2度 風速3.9m/s 曇りのち晴れ

1000 P4出発

1730 バサースト島の上陸口 P5にて行動終了

移動距離35km

朝一番はまだ風が強かったが、だんだん風が収まってきたので出発することにした。

今日はアリーサクたちのトレースを追ってきたが、トレースはよく見失う。バサースト島の上陸口であるポーラーベアパスの入り口で、本日の行動を終了した。その名のとおり、白クマのけもの道だ。明日は、ポーラーベアパスの谷を凍結している川沿いに上り、東小屋に向かう予定。東小屋まであと直線距離で15kmの距離。

アリーサクたちのスノーモビルトレースを見つけながら進みたい。

寒かった。指先が冷たい。

 

●2009/03/04 (DAY8) -37.2度 風速0.3m/s 晴

930 P5出発

1300 東小屋P6

移動距離20km

アリーサク達のトレースを追うが、何度も見失い、谷を迷いそうになった。幸い本日は視界が15km以上と良好で、途中で小高いところに建造物らしきものを発見した。双眼鏡で確認すると小屋だった。小屋は標高80mの地点にあった。アリーサクに再会する。

補給されたドッグフードや燃料をそりに積み込み、明日の出発準備を行う。

Tetsu_exp_map1

山崎有佐です、こんにちは。

遠征中はテツに代わりましてブログを更新します。

 

右の地図は、夏の衛星写真を元に作られているので、海が青く、陸地は緑や土色が見えますが、実際の今の季節の北極圏は海も陸も雪と氷に覆われているので一面真っ白です。現在、犬ぞりチームは、陸地に沿って海氷上を進んでいます。地図上の緑のテントマークが出発地のレゾリュート、黄色の犬マークがキャンプ地を指します。

Google Map
で地図を確認する際は、
http://maps.google.co.jp/maps/ms?ie=UTF8&hl=ja&t=h&msa=0&msid=108625101905361637327.000463c90d141a4c350e6&ll=75.25026,-96.594543&spn=1.900217,9.887695&z=7
を参照して下さい。地図を拡大、縮小して見ることができます。

●2009/02/25
 (DAY1) -28.5度 雪
9:30
 レゾリュート発
15:00
 雪により視界が悪く凸凹が見えず行動終了

移動距離40km

キャンプ地は地図上のP1

初日につき、テントを立てるなど生活面も時間がかかる。

引き綱なしで走らせているシンとコウもしっかりついてきた。

 

2009/02/26 (DAY2) -32.2度 吹雪のち晴

11時頃、視界が良くなり行動開始

12:00

17:20日没、行動終了 

移動距離35km

キャンプ地はCape Airyを回ったところ。地図上のP2

500mほど離れていたが白クマ3頭に遭う。犬たちも気づいたが何とか回避した。

 

2009/02/27 (DAY3) -26度 雪

1030ホワイトアウト気味の中、出発

14;30バサースト島に横断の途中でホワイトアウトにより行動終了

移動距離25km

キャンプ地は地図上のP3

キャンプ地にて海氷観測を行う。海氷厚は140cm

テツ負傷、右ふくらはぎ上部の筋肉が切れた。乱氷帯の中で雪に隠れたクラックを踏み外したようだ。歩けるが、踏ん張りがきかない。

リーダー犬のキナリ、食欲がない。

 

2009/02/28 (DAY4) -31.8度 地吹雪

地吹雪により停滞(キャンプ地はP3のまま

テツの足の状態は昨日より痛みは和らいで、普通に歩けるようになった、徐々に回復すると思われる。

キナリはホワイトアウトの中、先頭を走るので、目が回るのかもしれない。ホワイトアウト酔いだろうか。

寒いので犬たちに多めにドッグフードをやっている。ドッグフードの補給地を2箇所から1箇所に変更を指示する。

 

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