犬ぞり案内人 山崎哲秀 ー北極圏をテツがゆくー

グリーンランド北西部地方に古来から住む、エスキモー民族から伝承を受けた犬ぞりを操り、“アバンナット北極プロジェクト”に取り組む、山崎 哲秀のブログです。 このブログでは、北極遠征中や日本滞在中の活動の様子を紹介します。 アバンナットプロジェクトの詳細は、山崎哲秀のホームページhttp://www.eonet.ne.jp/~avangnaq/ をご覧下さい。山崎哲秀の連絡先は、同ホームページに記載しています。

2012年02月

2012229日(水) 曇り -38.5

20120229

 今年は229日まであるんだね。今日から3月だと思い込んでた。一日得した気分だ。

 衛星画像を確認してみると、バロー海峡の海氷が動き始めた、というシグナルが出た。やはり今シーズンも定着とはいかないみたいで、僕が犬ぞりで走行してきた海氷も近いうちに流出し始める可能性が大きくなった。これを心配していた。5年前にグリーンランドで犬ぞりを流されて、危機一髪を経験して以来、海氷が流出しやすい付近で、のんびり活動するのが怖くて仕方ないのだ。このシグナルで、今季はバロー海峡のルートの選択肢は僕の中では無くなり、踏ん切りがついた。このあと西側の別ルート、メルビル海峡を縦断するルートで取り組んでみることにする。

写真:227日の衛星画像。赤いラインから海氷が動き始めたシグナルが出た。その西側で僕が犬ぞりで走行した海氷も、黒い縦のクラックあたりから動き始める公算が大きくなった。

2012228日(火) 晴れ(氷霧) -39.3

 昨日27日、8日間の犬ぞりでの野外活動を経て、一旦レゾリュートに帰着した。バロー海峡を縦断して、ピール海峡へとルートをとりたいのだが、ピール海峡に入る前が全体的に背の高さ以上もあるような、ブロック状の乱氷で塞がれてしまっている。距離にしてたったの20km30kmとはいえ、氷を砕いて犬ぞりが通行できる幅を道路工事するには、気の遠くなる話で、おそらく1週間10日といった話ではない(ひ弱でスミマセン・・)。長年の、地元エスキモーの人達の通行ルートでもあるのだが、今季もまだ誰も通行出来ていないというから、やはり簡単ではない。彼らの話では、11月に海氷が凍り始めた時期に、北からの強風が吹いて、割れた氷が吹き押し寄せられて入り口が塞がったとのこと。スノーモービルでの補給も頼みの綱だから、彼らでさえ通常のように通行できないなら、対策を考える必要がある。

ジグザグとあちこちルートを探したりしたが、犬たちも消耗するばかり。ソリは2度も横転させてしまうし・・。この8日間で300km近くは走ったと思うけど、スムーズならケンブリッジベイまでの行程の3分の1は消化できているといったところ。4年前のようにすんなりと、その後のシーズンは通行させてくれないなあ・・。海氷の観測データはそれぞれのキャンプ地点で取ることができて、厚さは犬ぞりで走るには十分だけど、90140cmくらいと意外と薄い。でもやっぱり犬たちと走り回るのは楽しい。顔面は凍傷だらけだが・・。

写真:犬ぞり走行の風景。こんな平らな海氷ばかりだといいのだが・・。イエローナイフから来たカナディアンエスキモー犬「ケガッ」が初日以降走れなく(他の犬たちについて来れなく)、ずっとソリに乗せていた。2~3歳とのことだけど、かなりの老犬なんじゃないかな?と走りっぷりを見て感じている。長期間走り回るのはちょっと酷だなあ。

20120228

2012/02/24 day5
+74° 19' 17.50", -96° 57' 13.50"
乱氷の突破口を求めて走り回ったが見つからない。自分も犬たちも消耗するだけだ。一旦レゾリュートに戻り、ルートを再検討し、体制を立て直すことにする。

2012/02/25 day6
+74° 32' 30.20", -96° 15' 3.40"
犬たちへのかけ声で喉が枯れる。午前中、視界なしだったがうまく進めた。犬たちも頑張った。

2012/02/26 day7
+74° 43' 46.30", -95° 42' 57.70"
通常の遠征では好天は1週間続かず、1週間続けて走ることはあまりない。午後からルータ、ルークをそりに乗せた。

※ブログの左側のメニューバーの中の「地図 今ここにいます」の「 Tetsu's expedition 2012」をクリックすると、地図がグーグルマップで表示されるようになっています。

山崎有佐です。こんにちは。
テツが2011年10月17日に北極入りしてから約4ヶ月。
その間に海は凍り、太陽は戻り、犬たちのトレーニングや装備の準備期間を経て、2月20日に今年の遠征を開始しました。
遠征中は、本人に代わり、定時更新を元に簡単に状況をお知らせします。

2012/02/20 day1
+74° 40' 10.90", -95° 52' 22.70"(左側の+は北緯を、右側の-は西経を示します)
曇り、視程が悪い。島影を頼りに進む。
リーダー犬が不在である、犬たちを順に前に出して試している。先が思いやられる。

2012/02/21 day2 -34.1度
+74° 34' 52.10", -96° 41' 33.50"
時々ダンと大きな音がする。遠くで海氷が割れて動いているのだろう。
リクがリーダー犬をやるのが一番しっくり来るようだ。
メス犬のケガッが走りについて来られず、ずっとソリに乗せている。
子犬のルータとルークはフリーにしているが、よく走る。
乱氷に行き詰まっている。

2012/02/22 day3
+74° 25' 57.60", -96° 40' 50.10"
乱氷のため、くねくねと曲がって直線距離の何倍も走り回る。

2012/02/23 day4
+74° 12' 50.70", -97° 12' 39.00"
今日はほぼ直線コースで進むことができたが、また乱氷帯に突入。

※ブログの左側のメニューバーの中の「地図 今ここにいます」の「 Tetsu's expedition 2012」をクリックすると、地図がグーグルマップで表示されるようになっています。

2012219日(日) 晴れ  

 朝から町の前の海氷上に、犬たちと装備類を移動させる作業。テントを張り、今夜からテント泊。何かと理由をつけて出発を引き延ばしたいところだが(笑)、心を鬼にして北極の自然へ入っていくことに。

明日以降からブログは、毎日の安全確認のための定時交信に基づいて、日本から有佐が更新してくれることになります。余裕があればなるべくイリジウム衛星電話を通じて、写真も送りたいと思ってます。

2012218日(土) 晴れ -33.9℃ 

 2週間前に3ヶ月ぶりに戻ってきた太陽は、今朝は7時頃には東の空が薄明るくなり始め、9時半頃に顔を出した。そして午後3時半頃に南西のグリフィス島の向うへと沈んで行ったが、5時になってもまだ残照が残るくらいになっている。たったの2週間でこんな感じで、この時期の太陽の一日一日の移り変わりは著しい。北緯74°のレゾリュートでは、毎日7~8分太陽が昇るのが早くなっていき、沈むのが遅くなっていく。45月頃からの白夜へ向かってまっしぐらだ。

気温はこのあたりが一番冷え込む時期だと思うが、すっかり明るい時間帯が増え、犬ぞり旅行へ出かけるシーズンとなった。明日19日はレゾリュート前の海氷上に装備等の荷物を全部移動させ、一晩テントを張り、20日に出発する予定。レゾリュート南のバロー海峡は何年ぶりだろう?海氷が今のところ定着している。この海峡を渡るのが一つの核心部とも言えるが、衛生画像をずっと観察していたが、所々海氷にクラックが入っているので、かなり慎重にいきたい。特に新月前後で潮が動く時だ。海氷も海流や潮汐に合わせて動く。海峡を渡る前にある小さな島、グリフィス島の沿岸に待機して、天気予報を確認しながら数日間の快晴が続きそうなら、横断に入りたいと思っている。4日も5日もテントを張りたい海氷ではないので慎重に。何が何でも突き進むではなく、無理はしない。地元のエスキモーの人達にもすんなり渡れそうになかったら、支援をお願いしている。

とりあえず今シーズンの犬ぞり旅行が始まります。

写真:今日のPM3時頃、南西のグリフィス島の向うに輝く太陽。

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2012216日(木) 晴れ -32.1℃ 

1.      

活動場所

   カナダ北極圏、レゾリュートベイ~ケンブリッジベイ間のマクリントック海峡の探査・フィールドワーク(観測データ収集活動)を、犬ぞりを移動手段として実施する。活動域は海氷の状態により変わってくるが、下記地図上の黄色枠内が活動範囲と考えられる。

2.      

活動期間と行程予定

    2012220日前後~5月中旬。

    極夜が終わり、太陽が十分に高くなる220日前後に犬ぞり旅行をスタート。レゾリュート~ケンブリッジベイ間のマクリントック海峡の探査・フィールドワーク(観測データ収集活動)を実施する。予定では往路はピール海峡から入り、復路にマクリントック海峡からレゾリュートへ戻る。

    ケンブリッジベイ到着後は、NPO法人「SORD」(希少難病患者支援事務局) http://www.sord.jp/ とのジョイント活動を実施予定。

    その後、レゾリュートへの復路へと入り、5月中旬までにはレゾリュートに帰着する。

この何年かのレゾリュート周辺は、レゾリュートから、ピール海峡とマクリントック海峡に抜けるまでの海氷状態が悪く(結氷せず海が開いていたり、乱氷帯)、一つの核心部となります。今シーズンはここ4、5年の間では海氷が定着しているようですが、行ってみて状態がひどい場合は、方向転換してメルビル島周辺などなるべく広い範囲を移動し、今冬期の海氷状況など観測データを収集して回る可能性もあります。どちらにしても、今後に繋がる活動にしたいと思います。

写真:今シーズンの活動予定地図。

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2012215日(水) 雪のち晴れ -22.4

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 犬ぞりチームは最終調整といったところで、今日はイエローナイフからの新加入&若い犬たちを中心にどんな具合か走らせてみた。イエローナイフからの新加入犬「ケガッ」&「パミウリ」は、走行は全く問題は無くなったが、最初の出だしのパターンが覚えきれず、スタート時に輪を乱してしまう。いっぽう、昨シーズン長期旅行が出来なかったため、2歳の「ゴードン」&「ボタン」は長期旅行は今シーズンがデビューというルーキー。まだやはり集中力に欠けて、スタート時にイエローナイフの犬たち2頭につられて、輪を乱してしまうことがある。生後4ヶ月の「ルーク」&「ルータ」は、4ヶ月にしてはかなり優秀だと思うが、まだ全部覚えろということが酷なので仕方ないにしても、輪を乱す犬がいたら、どっちに付いていけばいいのか混乱するのは否めず。これは生後4ヶ月の段階では仕方なし。今日は9頭中6頭がルーキーといっていい犬たちで、スタート時がメチャクチャだった。やはり元気で若いだけでもスムーズにはいかず、ベテランというのはチームのバランスを保つためにも貴重だと思う。今シーズンのチームはまとまりに欠けることでも不安があるが、ベテラン犬たち、若い犬たちを上手くリードしてくれよ。

写真:今日の犬ぞり調整にて。

2012210日(金) 曇りのち雪 -18.8

20120210 気温がグンッと上昇した。天気は曇りから雪へ。

 220日を目標に犬ぞり旅行の準備を進めている。犬ぞり旅行前の最後のワンコ近況は「アプ」。そう言えば「アプ」は日本語では「雪」の意味だ。

「アプ」も今シーズンも体調は良さそう。体力の心配も無いだろう。この「アプ」は何故かメス犬たちに人気がある。特別に扱いにくい犬でもないし、ひねくれてもないし、性格がいいからか?変わらず犬ぞり旅行でも宜しくね。

写真:今日の「アプ」。名前にふさわしく、天気も「雪」模様。

201229日(木)(その2) 地吹雪のち一時晴れのち雪 -26.0

20120209 24日に太陽が戻ってから悪天候が続き、次の太陽がなかなか見れないままだったけど、今日は地吹雪のあと、お昼頃一時的に晴れ。眩しい太陽を見ることができた。

写真:今日の太陽と犬たち。

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20122月9日(木) ブリザードのち地吹雪 -28.3℃ 

 今の北極での活動方法、また「犬ぞり」という活動手段は、リスペクトするエスキモー民族から継承を受けた。そして北極での活動の中での「方向性」というのは、これはまたリスペクトする研究者の方々から意識を受けた。北極での犬ぞりでの活動は僕のライフワークだが、その北極の中での夢がある。

まずはグリーンランドと日本との姉妹都市・友好都市といった関係を何とか将来的に橋渡ししたいこと。そしてもう一つは時間がかかりそうだけど将来的に、グリーンランドとカナダの極北にそれぞれ、日本の観測拠点を設営したいこと。日本の極地研究者の方たちが北極で、短期的なものではなく、もっと1015年その先と観測を継続していけるような体制を、設営という方向から形にしたい。これは日本の極地研究者の方々への「ラブコール」です。同じ方向を向かないと一人だけでは(研究者の方たちがその気にならないと)実現できないことだから。

とりあえず今シーズンもライフワークを取り組んできます。

201228日(水) ブリザード -30.0

201202081 ブリザード止まず。ずっと視程も数百メートルの状態が続いている。

今日はワンコ紹介で「シン」。「シン」は生後3ヶ月半の時に、兄妹の「コウ」と共にその年の犬ぞり旅行に同行して15001600kmを走りきった経験もあり、全く心配していない。最近はチームでの発言力も出てきて、それなりに強い立場にいる。

この2日間は悪天で、犬の見回り、餌やり以外は外に出ず。220日頃より今シーズンの犬ぞり旅行をスタートする予定で、今日は屋内作業。食糧の準備を全部やり終えた。

写真上:数日前の「シン」。首周りもガッチリしてて頼もしい。

写真下:補給用食糧のパッキングの途中。最終的に5日分に小分けして、60日分を準備した。

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201227日(火) ブリザード -33.1℃ 

 昨日から強烈なブリザードが続いている。それに加わって昨夜10時頃から停電が続いた。復旧したのは今日の朝10時頃。丸々12時間停電だったわけだけど、僕の宿泊してる施設では暖房も止まり、一気に建物の中も冷え込んでしまった。電気が復旧する直前は、みんな室内で防寒着を着ている始末。電気の安定供給には程遠い場所なんだなあ、と改めて感じた。太陽エネルギーは年間の半分ほどは使えないだろうから、もし使うとしたら夏に間に、冬の半年間分の電力を溜め込む蓄電システムが必要だろうな。風力は恐らくプロペラが氷霧なんかで凍りつきそうな気がする。もしこの先化石燃料がなくなったら、北極はどうしたらいいだろう。昔のようにアザラシ等の動物脂を使う?

201225日(日) 地吹雪のち晴れ -32.1℃ 

 地吹雪が小康状態になったので、午後から少しでも仔犬のルータ&ルークを走らせておくことに。引き綱とナスカン(金属のフック状の留め金)の取り外しをしていたら、ピョンッとナスカンが跳ねて、こともあろうに口元へ飛んできた。な、なんと、湿りっ気のある唇に、寒気に冷え切った金属のナスカンが瞬間凍結で貼り付いてしまった。とっさに舌で払いのけてしまったら、「し、しまった」舌の前部分全体にさらに瞬間凍結。皆さん寒冷下では濡れた手で金属を触らないように気をつけましょう。

写真:瞬間凍結で貼り付いた金属のナスカンを剥がすと、唇と舌の皮も一緒に剥がれた。特に舌の右部分がベロン・・。今も唇と舌がヒリヒリしている。これも火傷と一緒です。

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201224日(土)(その2) 地吹雪のち晴れのち地吹雪 -35.5

201202045_2 北緯74度のレゾリュートの町に、3ヶ月ぶりに太陽が戻った!!あと2、3日後だと思っていたら、正午前後、雪煙で少し霞んだ南の空に光が輝き、そのまま太陽が顔を出してくれた。極夜の終わりは何度味わっても感激だ。太陽のありがたさを感じる最高潮の瞬間!

写真:戻ってきた太陽!!

201224日(土)(その1) 地吹雪のち晴れ -36.2

201202041 「ケガッ」が発情期を迎え、犬ぞりを走らせるとオス犬たちは「ケガッ」のほうへと寄って行き、全然真っ直ぐには走ってくれず。特に「ボタン」と「シン」がお熱のようで、自慢の扇形もメチャクチャ。リーダー犬養成中のボタンは後ろの「ケガッ」のところに下がって走る始末で、たまりかねて「ボタン」と「ケガッ」のポジションを入れ替え、「ケガッ」を「コウ」と共に先頭に出す。メス犬は何故か大抵はすんなりと前に出てくれるパターンが多い。「ケガッ」が先頭に出た途端に、オス犬どもは前を走る「ケガッ」を追うように必死でソリを曳いて走り始める。綺麗に扇形が広がり、ソリのスピードがグンッと上る。男はバカである(笑)。

写真:今日の犬ぞり走行にて。

201222日(木) 吹雪のち曇り -28.9℃ 

20120202 「ブルータスお前もか」という紀元前の有名な言葉があるけど、こちらもまたまたそれに匹敵して?落胆している。イエローナイフからやって来た「ケガッ」が発情期を迎えてしまった・・。その気配はあった。次から次と頭に来・・、いやいや、喜んでやらないといけないよな。それにしても「ケガッ、お前もか。」

写真:2日前の「ケガッ」。

2012131日(火) 晴れ -38.9

201201317 今日はイエローナイフからやって来たケガッ&パミウリを含めた、成犬全13頭での走行にやっと漕ぎ着けた。発情期だったコウも、数日前にようやく落ち着きを取り戻して、昨日から走っている。13頭も揃うとやっぱり壮大。扇型が綺麗に広がった。戦力はともかく、とりあえずまとめることは出来たかな。

 今日はワンコ紹介で「アミッアミッ」。相変わらずフレンドリーではないが、馬力は兄弟のアミッバルッに劣らず頼もしい。サボることを絶対にしないから信用は大きい。体力も問題ないだろう。現在の中心メンバーの一頭です。

写真上:13頭揃い踏み。綺麗な扇形に広がる犬達をみて、「気持ちいい~!」とソリの上で思わず叫んでしまった。

写真下:今日の「アミッアミッ」。普段はなかなか目を合わせてくれないが、珍しくいい感じのカメラ目線をくれた。

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