2013年03月
雪が降る
観測カメラ設置~その2~
3月23日(土)レゾリュート 曇りのち雪 -18.2℃
今日も天気の合間を縫って、朝7時に町を出て、Martyr(マーター)岬まで犬ぞりを走らせ、観測カメラの設置に行ってきた。曇り空が次第に雪となり、風が強まり始め、視程不良になりだした。設置後にすぐに引き返す。視程が無くなり海氷上は何処を走っているのか分からなくなったので、ルートを変え、海岸の定着氷に沿って戻ってきた。プラスアルファの作業がなかなか出来なくて、申し訳ないです。4月中旬予定の帰国までに、天気のいい日に保守点検を含めて再度出かけたいと思ってます。ほんとに今シーズンの2月&3月の天候はおかしい・・。
写真:マーター岬の斜面に観測カメラを設置。設置後、周囲の視程が利かなくなってきた。何の写真か分からないね(笑)。
観測カメラ設置~その1~
ラッキー
3月15日(金)レゾリュート 吹雪のち地吹雪 -20.6℃
それにしても2月中旬以降は悪天候続きだ。ここまで続くのはレゾリュート周辺で活動してきた中では経験ないなあ・・。この冬は12月から1月にかけての極夜中は、特別に強い風も吹かず例年に比べて天気が安定していたけど、そのしわ寄せが2月中旬以降にドカンッ!ときてる感じだ。吹き荒れている日が殆どで、止んだと思ったら雪でホワイトアウトだったり、まともに晴れたのがほんの数日。結果論だけど、もしもいつものシーズンのように2月中旬頃から長期で犬ぞり旅行に出かけていたら殆ど停滞で、また犬たちの騒動も加わってメチャクチャになっていた気がする。1か月経った今頃でも、まだレゾリュートからほんの近い辺りでウロウロしてたんじゃないかな。それくらい天気が安定しない。何日か前に、連日強風の悪天が続いている中でシビレを切らしたのか、イギリス人の二人の冒険家が、ソリを引っ張って徒歩旅行に出かけたら、4、5日ほどで指に凍傷を負いレスキューされた騒ぎがあったそうだ(北極経験者とのこと)。そういった状況からも、今シーズン長期犬ぞり旅行が出来なかったのは、逆にラッキーというか、上手く流れているのかもしれない。いい方向に考えることにしよう。
写真:昨日の午前中、視程は悪かったが風が止んだので、若い犬たちを走らせてやる。
日本より
3月14日(木)レゾリュート 雪 -27.5℃
国立極地研究所所長の白石先生と同研究所の北極観測センター長の榎本先生が、レゾリュートに到着されました。今後の日本の北極観測調査の為の視察とのことです。お二人とも長年に亘り、南極~北極をはじめ、地球のあちこちを観測調査されて来られた大のフィールド好きで、空港でお迎えした時の、とにかく嬉しそうにされている笑顔が印象的でした(笑)。
僕もここのところ何かとスッキリしない気分が続いていただけに、気心知れたお二人の先生の顔を見てホッとしてしまいました。お忙しいようで数日間の滞在ですが、色々と極地の話が出来ればと思います。今後の日本の研究者の方たちの、グリーンランド~カナダ北極圏の観測調査が、断然面白くなっていきそうです。
写真:レゾリュートに到着の白石先生と榎本先生。
応援して下さっている皆様へ
3月11日(月)レゾリュート 曇り~晴れ -29.7℃ 応援をして下さっている皆様、いつもありがとうございます。今日は頭を下げて一つお願いがあります。来シーズン、僕のホームグラウンドであるグリーンランド北西部(カナック地方)に戻り、犬ぞりチームを再編成する時間を下さい。 現在の僕のドックチームは崩壊状態にあります。頭数こそ13頭いますが、オス犬は9頭。そのうちベテラン犬の「アミッバルッ」はリハビリ中(全身の筋肉系がやられているようです)で、体調不良が続き復帰の目途がたっていません。残りのオス犬8頭は、4頭が6歳~8歳のベテラン犬。もうあと何シーズン現役でいれるか分からない年齢です。他の4頭のオス犬たちは「シン(4歳)」を除いて1歳半以下の駆け出し。チームを背負っていくには程遠く・・。そんな状況下に置かれてしまいました。このあとの今シーズンもさることながら、来シーズン以降の犬ぞりによる活動の予定が立たないのです。メス犬たちは4頭いますが、体力や馬力などの面でオス犬たちと同じような戦力として期待するには可哀相です。5シーズン前にグリーンランドからカナダ北極・レゾリュートに移動してきて以来、次世代の仔犬たちの繁殖にも神経を使ってきたのですが、ある時は生まれて数カ月の仔犬たちを盗まれてしまったり、ある時は病気で育たなかったり・・。何故かグリーンランドのようにすんなりとは育ってくれないのです。今シーズン、中間年齢層の「キャヨット」「ゴードン」が立て続けに12月に亡くなり・・。それでも3歳の「ボタン」がいてくれたので、また何とか来シーズン以降、レゾリュートでチームを立て直そう、と前を向いていましたが、ここにきて起きた狂犬病騒動で、「ボタン」そして「アミッアミッ」までも失うこととなってしまいました。何か心の糸がプツリと切れてしまいました。どういう理由であれ4シーズンの間に若い犬たちが全く育ってくれなかった、という事実は、このあとレゾリュートでメス犬たちが子犬を産んでくれたとしても、ちゃんと育ってくれるのか先が全く見えないのです。観測拠点設営の目標地、メルビル島探査を実施するにあたって、今のチーム状況では危なくて活動が出来ない窮地に追い込まれてしまいました。活動できる体(たい)が残っていません。「ボタン」がやられてしまったあと、グリーンランドに戻りチーム再編成の構造が頭を過りましたが、今のチームの犬たちを残して行くことになるので(チャーター機で輸送するにはコストがかかりすぎてしまい、今シーズンの体制ではできず・・)、レゾリュートで何とかしよう、と思い留まっていましたが、「アミッアミッ」をさらに失ったことで、迷いが消えました。来シーズン、ホームグラウンドであるグリーンランドに戻り、ドックチームを再編成する決断をしました。この年齢になっての一年一年、振り出しに戻るには、決して余裕がある時間ではないのですが、その時間を下さい。また犬たちのサポーターの皆さま、ワンコ達をレゾリュートに残して行くことを許してください。チームを再編成して、遅くても2シーズン後にはまたレゾリュートに戻る予定でいます。 今しばらく今シーズンの活動予定がありますので、残していくことになる犬たちにつきましては、シーズンの終わりに報告をしたいと思います。決して適当に扱ったりはしないです。
犬ぞり
3月9日(土)レゾリュート 曇り(低い地吹雪を伴う) -26.4℃
どうして北極での活動に犬ぞりを利用しているのか?とよく質問を受ける。北極の自然環境をテーマにしているのも一つの理由で、その本人がスノーモービルなどを利用して、排気ガスをまき散らしながら活動するのでは説得力がない、ということもあるけれど、それ以上に、20歳を過ぎてから北極に通い続けるようになり、最初の頃こそは冒険的な記録を目指すような心構えだったが、エスキモー民族の「犬ぞり」というスタイルをずっと眺めているうちに、北極では凄く利にかなった移動手段だと感じるようになった。この極寒地を何千年と犬ぞりと共に生活し生き抜いてきたエスキモー民族に尊敬の念を抱くようになり、彼ら(グリーンランド北西部エスキモー)からエスキモー型の犬ぞり技術を伝承してもらった。アラスカ~カナダ北極圏~グリーンランドと広域にわたり居住しているエスキモー民族だが、アラスカ、カナダ北極圏ではエスキモー文化の衰退が著しく、すでに犬ぞりは必要とされなくなってしまった。唯一伝統的に生活の中に残されているのが、グリーンランド北西部地域だけとなっている。僕の北極活動において掲げているテーマ(目標)の一つに「エスキモー文化の継承」がある。犬ぞりを始めとする彼らの文化を少なからずとも引き継いだ以上、彼ら民族の中でもどんどん廃れていく「犬ぞり」という移動手段はこれからもこだわっていきたいし、次の世代にも繋げていきたい(これは犬ぞりという個人的な部分で、大きく観測調査をするにあたっては、臨機応変にスノーモビル等も含む色々な手段を取り入れないといけないです・・)。
エスキモースタイルの「犬ぞり(扇型)」で活動を共にするバディ(相棒)をずっと探しているが、なかなか見つからない。次の世代に繋げる、という意味でも、誰か勢いのある若い人がいてくれればいいし、2チームでの活動は効率も良くなり、幅も広がるのだけど。時間と根気と維持費もままならないから、飛び込んでくるにはハードルが高すぎるのか・・。
写真:犬ぞりの風景。氷河登攀と氷河末端の海氷上にて(いずれもグリーンランドにて)。
崩壊
3月8日(金)レゾリュート 曇りのち晴れ(地吹雪) -25.7℃
悪夢だ。心配していたことが現実となってしまった。ボタンに続いて「アミッアミッ」も倒れてしまった。あくまでも素人の所見だが、ボタンが狂犬病と思われる症状を発症してチームをメチャクチャにしてから12日目。その時に最もボタンから噛みつかれてしまったのが「アミッアミッ」だった。それまでは毛並もよく、ベテラン犬にしてはすこぶる元気だったのに。噛まれた右前脚を痛々しそうに引き摺っていて、化膿しないように抗生物質を飲ませながら治療していたのだが、足を地面について歩き始め、回復してきたと思った矢先だった。今朝犬たちの見回りに行くとすでに息を引きとっていたのだ。まだ体は凍りついておらず、ほんの1時間ほどくらい前のことと思われた。噛みついて狂うような症状は無かったが、調べてみるとそういう症状で死に至ることもあるという。どうしてワクチンは利かないのか・・。それとも他に違う原因があるのか?残っている犬たちは今のところ元気そうにしているが、もうしばらく経過を観察してやる必要がある。これは気持ちがきつい・・。これ以上なにもないことを祈るしかない。大切なワンコ達、僕の犬ぞりチームが崩壊してしまった・・・。
写真:「アミッアミッ」
Martyr岬へ
悪天候続く
3月4日(月)レゾリュート ブリザード -23.0℃
悪天候が続いている。泊りがけで出かけるのに、ずっと待機しているのだが・・。澤野さんも帰国予定のフライトが2日続けてキャンセルされ、今日も足止めを食っている。2月20日以降天気がよかった日は殆どなく、そこそこ良かったのが、澤野さんと犬ぞりで出かけた25日午前中と、レゾリュートに戻ってきた27日だけ。毎シーズン厳冬期からの季節の変わり目に一週間以上吹き荒れるのがパターンだが、たぶん今の天気が落ち着いたら、平均気温がグンッと上がって暖かくなるんじゃないかな。だとしたら例年より早い季節の変わり目となる。
そんな悪天候の中、昨日は風が強烈過ぎて見回りしかできなかった犬たちに餌を与える。意を決してブリザードの中でひと作業。悪天下ではどんな作業も雑になってしまって良くない。今日は解凍したアザラシの肉。2日前から屋内に持ち込んで解凍し、準備していた。こぶし大くらいの肉塊に切り分けてやるのが普通のやり方。あとで見回ってみると、骨のかけら一つ残さず全部食べてしまった。
写真:視程が100mもない吹き荒れる中、犬たちに餌をやる。(撮影:澤野林太郎
記者)
うちのカミチャン
狂犬病
3月1日(金)レゾリュート 晴れのちブリザード -41.0℃
「ボタン」が狂犬病に感染したのでは?と思われる症状が出たのは、犬ぞりで泊りがけで出かけた2月25日のこと。その数日前から、なんだか他の犬たちにやたらとケンカを吹っかけるかのように噛みついていて、次期ボス犬になりそうな強い雰囲気を持ち合わせているワンコなので、世代交代の波が来ているのかと思っていたが、それが異常だと気付いたのは、キャンプを張ったその日の夜だった。キャンプ前の走行中にも他の犬たちに噛みついてはチームワークを乱してイライラさせられ、深夜になってからはこれまでにない行動をとり始めた。まずは繋留中に胴バンドをグチャグチャに噛み切って逃げ出し、他の犬たちに噛みつきにかかり、騒動を鎮めるのに地吹雪の中一苦労。テントの中に戻りしばらくすると、また犬たちが騒ぎ始めたと思ったら、今度は曳き綱を噛み切ってフリーになり、また他の犬たちへ。ソリ曳き犬に育ててきたこれまで僕が知っている「ボタン」ではなく、狂っているとしか思えない光景だった。そのあと町のほうへと駆け出して行ったのだが、悪天停滞が終わってレゾリュートに帰ってみても、「ボタン」は町に戻っていなかった。町から離れたゴミ捨て場方向でそれらしき様子のおかしい犬を見かけた、と目撃情報があったが、それからは今日になってもチームの場所へも戻ってこず、おそらく、発症後数日で死に至る、と言われるように、そのまま何処かで死んでしまった可能性が強い。
狂犬病の予防接種は規定通りに続けていて、まだ有効期間内であったにもかかわらず、僕の接種の仕方が悪かったのか・・。町に戻ったあとすぐに、治療の一環として他の犬たちにも再度、狂犬病の予防接種を打ち直しておく。感染していないように祈るばかり。あるいは「ボタン」が狂犬病ではなかったのならいいのだけど。他の犬たちも、数週間も経過を診れば、大丈夫かどうか判断できるだろう。
思い当たるのは2月中旬を過ぎた頃に、繋留している「ボタン」の班でキツネを食べた形跡があったこと。この冬レゾリュートではキツネが異常繁殖していて、捕獲したキツネを一匹40ドル(だったか)で、町の行政機関が買い取っている。僕も歩いていて、立ち向かってくるキツネに何度も遭い、すごく気をつけていた・・。おそらく「ボタン」が、ノコノコとやってきたキツネを捕まえた時に、少なからず噛みつかれただろうし、また感染した個体の肉?脳みそ?なんかを食べても感染するというから、「ボタン」が狂ったのは感染してしまったとしか思えない。将来期待していたワンコだっただけに、何とも気が重い事件だ。
この一件で、また1頭の若いオス犬を失うことになった。今シーズンはいいとしても、来シーズン以降の活動にあたってのチーム維持がどんどん難しくなり追い込まれていく。チームのオス犬が9頭で、しかも次世代の若い戦力がいないのだ。狂犬病は不可抗力にしても、どうしてレゾリュートではこんなにも若い犬が育ってくれないのか・・。
写真:普通に忠実なソリ曳き犬だった頃の「ボタン」。