●2009/03/05 (DAY9) -32.2度 風速2m/s 晴

東小屋P6にて停滞


 昨日のうちに橇への荷造りは終えていたが、南部に強い低気圧が近づいてきており、風が強くなりそうなので、無理せず停滞とする。一旦吹雪いてしまえば、広い谷を下るにも遭難の危険を伴うし、数日悪天候で停滞するなら、ドッグフードのあるところで待機したほうがよい。


 アリーサクたちは今日スノーモビルでレゾリュートに帰るらしい。吹雪の中でも時々立ち止まり、GPSで目的地までの方向、距離を確認しながら進むようだ。それにしても、GPSの精度には感嘆する。出発前にGPSで計測したレゾリュートの宿の南東側出口は、北緯744147.7秒、西経944918.8度であるが、Google Mapでもこの緯度経度は確かに宿の南東側出口を指す。先日、吹雪の中、P4で停滞していた我がドッグチームをアリーサクたちのスノーモビルが発見してくれたのも偶然ではない、日々のキャンプ地の緯度経度を定時更新で有佐に伝え、有佐がそれをレゾリュートでサポートしてくれているアジズに伝えているから、アリーサクたちはその緯度経度を元に、GPSで位置を確認しながら見つけ出してくれたのだ。そうはいっても吹雪の中をスノーモビルを走らせながらGPSを見る余裕はない。先に出発した我がドッグチームの橇のトレースをスノーモビルのライトで照らし確認しながら追ってくる。しかしトレースは風に消されたり、犬ぞりが迷いながら進むので、アリーサクたちはかえってトレースに惑わされたらしい。スノーモビルなら道を誤っても引き返せるが、犬ぞりは引き返すだけでも大変だ。無理は禁物なのである。

明日、スカッと晴れたら上ってきた谷を降りて、再び海氷に出る予定。

 

 アリーサクとケナは朝11時半に出発した。アリーサクたちが小屋で使った燃料の残りを使わせてもらえたので、今日は小屋に泊まる。ぬれた寝袋を乾かすことができる、ありがたい。この小屋は、谷を見下ろす小高い場所に立っているが、どうやら谷に集まる白クマやジャコウウシ、鹿などの野生動物の調査観測用施設らしい。このあたりの夏は雄大な景色が広がり、多くの動物生息する本当に美しい場所なのだそうだ。このバサースト島にはこの東小屋以外にもいくつか小屋がある。この旅行の当初の計画では、ドッグフードを2箇所の小屋に分散して補給してもらうつもりでいたが、途中で、この東小屋1箇所への補給に変更してもらった。昨年までのグリーンランドに比べ、カナダ側は格段に寒い。犬たちは寒くても元気だが、寒いだけで体力を消耗し痩せてくるので、ドッグフードをたっぷり目にやっている。そのため、1箇所の小屋へ集約するほうが効率がよいと判断したのだ。

 

●2009/03/06 (DAY10) -37.3度 風速13m/s 高い地吹雪

P6にて停滞2日目


昨日、アリーサクたちはレゾリュートまで約200kmを超える道のりを6時間半で帰ったらしい。海氷の上を走るスノーモビルはアスファルトの道を走るバイクとは随分違う。相当猛スピードで帰ったようだが、海氷が真っ平らではないので振動が激しいし、寒いため、途中でエンジンを止めると、次にエンジンをかけるのにコンロで暖めないといけない。きっとエンジンを止めずに一気に帰りたかったのだろう。この旅行中に撮った写真をCDに焼いたものをアリーサクに託したが、寒さとスノーモビルの振動のため、CDにひびが入って使えなかったようだ。衛星携帯電話イリジウムでの写真伝送がうまくいかず、ブログに旅行の写真をアップできるのは、レゾリュートに戻るまでしばしお預けです。


今日は再び小屋からテントに移った。小さなテントは少量の燃料で温まるから小屋よりよほど暖かい。だが小屋よりましとはいえ、寒いものは寒い。コンロをふたつ使用しているが、それでも寒い。そして風が強い。停滞中、テントの中にいるときにはずっと寝袋にくるまっている。相棒がいれば、話もできるし作業も分担できるが、停滞し、寒さに凍える日は一人が身にしみる。こういう日は犬たちも雪に埋もれたまま動きもせず、相手にもなってくれない。

風がやむのはもう少しかかりそうだ。

 

 

●2009/03/07 (DAY11) -36度 風速11m/s 地吹雪

P6にて停滞3日目


 また風力が増した。

 すごいブリザードだ、動かなくて正解だった。明日の午後から風が弱くなる予報どおりであることを期待する。テントの中は寒い。今日もまた寝袋で待たないといけない。テントで待つのも寒いが、外で動けば凍傷である、仕方ない。

 

 3月の初旬の気候はまだ観測向きではない。観測は、天気の安定する3月後半から4月以降にかけてがベストだろう。白夜の4月は太陽の光を一日中受けてポカポカし、テントで寝ていても暖かい。将来、研究者と観測を共にするにしても、恐らくこの寒さには耐えられないであろう。

 

 明日風がやんだら行けるところまで行く。ドッグフードの一部は帰路用に小屋に残し、8日分を橇に積んで持っていく。これからバサースト島の沿岸を北に進むが、天気とドッグフードの残量と相談しながら進むことになる。この小屋には帰路のドッグフードを回収しに、また帰ってくることになる。小屋まで再び谷を上ってくるのは手間だが、帰路の分のドッグフードもソリに一緒に積んで行くことはできない。今の時期、まだ気温が低すぎて、海氷面が砂のようでソリが滑らずに犬への負担が大きいからだ。かといって、小屋以外の場所にドッグフードをデポすることもできない。白クマに食べられて終わりだろう。320日頃にはレゾリュートに帰着するつもりで、時間と天気とドッグフードの許す範囲で、進める限り北上をし、観測を続けていきたい。