2012328日(水) 晴れのち地吹雪 -29.0

 レゾリュート帰着後は、またいつものSouth Camp Innに滞在。宿主のアジイ&アリーサック夫妻には、毎シーズンのことながらサポートして頂いており、今回の8日間の補給停滞の件も心配をかけ、尽力して頂いた。

この補給停滞中に起きた、もう一つの事件とは「白熊の襲撃」だった。補給停滞に入った310日には、キャンプ地においてまず最初の来襲を受けた。その時は30mほどの距離のところまで近づいてきたところ、白熊の頭上に向けてライフルの威嚇射撃を2、3発。なんとか追い払うことができた。悪天候中は白熊も活動しないのか?その後はただ風が吹き荒れていたが、半日ほど風が小康状態になった315日のお昼過ぎ、4班に分けてグルリとテントの周りを囲って防御してくれている犬たちがうなり始めた。慌てて外に出てみるともう20mも離れていない所まで、白熊が迫ってきていた。ヤツらはいつも風下から近づいてきて、犬たちも直前まで気付かなかったみたいだ。急いでライフルを取り出して、ルールに従って威嚇射撃を数発。ところが今回は逃げずに、歩測を早めて突進してきた。目前になるとさすがに迫力がある。もう躊躇なく白熊をめがけて弾を撃ち込んだ。ようやく逃げ出した白熊は、テントから500mほど離れたところで倒れたのだった。白熊の恐怖に加えて、尽きた犬のエサ、殆ど手元に無くなった自分の食糧のこともあり、「助かった」との思いが頭をよぎったのも嘘ではなかった。黙っていればよかったのかもしれないが、やはり黙っておくことは出来ず、その日の定時交信で報告したのだった。もし補給に来た際にでも見つかれば、追及されるのは免れないから。カナダ北極に出入り禁止になるのだけは避けたかった。

その後、Nunavut州のPangnirtungにある行政機関から、情況を報告せよとの問い合わせがあったり、レゾリュートでは町のHTO(Hunter and Trappers organization)(エスキモーの人達の狩猟組合?)から聴取を受けた。今はPangnirtungの機関とレゾリュートのHTOとの間で話し合われているようで、なんだかの処分があるなら連絡が来ることになっているが、おそらく重い処分は無さそうな気配、といった情況だ。

犬ぞりが北極や南極での遠征の移動手段として使われるようになった大昔は、狩猟をしながら移動を続けるのが普通だった。また相棒の犬たちでさえ食糧の一部と計算されていたのだが、今はもう時代が違う。動物保護という観点からも許される時代ではないし(僕も相棒の犬たちを食糧などとは考えることが出来ない)、現代は航空機などを利用した「補給」を受けれる時代でもある。流れには上手く合わせていく必要がある。ただ一つ言いたいのは、保護が過ぎているのだと思うが、やたらと白熊が増えすぎている。レゾリュート近辺での活動は4シーズンを迎えたが、年々白熊に遭遇する機会が増えていて、今シーズンに限っては犬ぞり旅行中に殆ど毎日100%といった感じだ。9割近くがキャンプ地への襲撃。残りは犬ぞり走行中。威嚇しても逃げなくなってきており、ディフェンスしきれない。この調子では、近い将来に銃を持たない遠征隊の人間が食べられる事故なんかも起こるだろう。探検・冒険の記述で、こんなに頻繁に白熊に遭遇しているのは読んだことがない。それともたまたま自分が白熊に好かれているというのか?何度もブログでも書いているが、白熊は絶滅の危機なんかじゃない。何千年後か何万年後かを見据えての、種の絶滅という意味ではそうなる可能性はあって、絶滅の危機にあるのかもしれないが・・。

これまで通りエスキモーの人達に、普通に狩猟をする権利を戻してあげて欲しいものだ。おそらく白熊は逃げるようになるだろうし、増えすぎることもないように思う。